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2006年12月13日

上昇志向という罠

数年前の国会を騒がせた秘書給与流用問題で辻本清美議員とともに実刑判決を受け、1年2ヶ月の牢獄生活を送った、もと衆議院議員がいっていたことに、最近痛く共感を覚えた。


氏は1年以上の収容生活で何かつき物が取れたような感覚に至ったという。議員にはもう戻りたくない、と前置きした上で、議員時代の自分は嘘の塊ではなかったか、と思うようになったという。国会質問などで精力的な活動をしているように思ってはいたが、それは実は「それらしいゲーム」をしていたに過ぎなかったのではないか、と。セーフティーネットがどうのこうの、といいながら、それ自体、世間でそういう風に言われているから、言っていたに過ぎない、現実の本当の世界とはかけ離れた実体のないゲームをしていたように感じる、と。


それが収容生活を経て、なにか地に足が着いた、というか、全ての物事がリアリティーをもって感じることが出来るようになった、という。僕はこの感覚に痛く共感を覚えたわけだ。

僕らの世代では、特に僕のようなベンチャー企業に関わる人間は、上昇志向という名のつき物に取り付かれている人間が多い。ベンチャーという言葉がそれ自体でかっこいいような響を持って受け入れられ、本質を考えることなく、前進するような、そんな人間が多いように思う。僕はそんな風潮に違和感を感じる方だが、なにかそれと似たような構造を持った話のように感じるのだ。

「国家、国民のために自分は活動している」というゲーム。本当はお金儲けの為なのにとって付けた様な理念を掲げてまい進するベンチャー企業。全てが「そういうことにしよう」という暗黙の了解の下に行われるゲームに参加しているような印象だ。本当の身の丈の自分を表現するのではなく、レベルの高い人間を気がつかず一生懸命に演じているような状態。周りを見回すと、こんな現象がいたるところで見られるような時代なのではないか、と感じる。

僕は会社設立間もない頃、人に騙されるという苦い経験をしたときに、氏と同じような感覚に襲われたことがある。上層志向という名の罠にはまっていた自分に気がつき、初めて地に足が着いたような感覚を覚えた。不思議だが、それから事業もうまく廻りだしたのである。


いつの時代も優等生病というものがあるそうだ。昔なら学歴優等生。いまならベンチャー優等生となるのだろうか。60年代で言えば安保闘争優等生である。時代が変わって何が価値あるものなのかの雰囲気が変わると、そのテーマに沿って必ず優等生が出てくるという。しかし、よーく観察してみると、そこに参加している人間の本質はなんら変わっておらず、60年安保を一生懸命やっていた団塊の世代が、今の時代に焼直せば、別のテーマで熱くなっているに違いない。そこには何の思想もないように見える。


本来なら自らの内から湧き上がる何か、に突き動かされる衝動だけが、本質を突いたものであるはずで、それは時代が与えてくれるものではないだろう。時代が変わり、カッコいいとされるテーマが変化しても、その部分はなんら変化をしないものであるはずだろう。上昇志向という言葉は、そんな本質を考えなくさせる危険をはらんでいるようで、僕はとっても嫌いなのだ。


僕は周りからは、野心家なり上昇志向の強い人間なり、と言われることがある。でも本人はそのようには感じてはおらず、ただただ、強烈な生を過ごしたい、と思っているに過ぎない。ベンチャー企業の社長という肩書きも、そんな思いのツールに過ぎない。社長という役割に関心は深いが、それが人生の全てだ、などと思うことはない。

なんにも知識や経験のないところから会社経営を始めた僕は、「上昇志向」というゲームにおぼれていたら、大失敗をしでかしたのだ。そんな経験から、こんなことを考えるようになった。

当たり前だが、会社のビジョンについて考えることが多い。文化の違う他社とのアライアンスも今、最重要テーマの一つだ。IPOすらも手段として重要なことには変わりない。しかし、それらは、それ以上のものでも、それ以下のものでもなく、会社を経営していくうえでの一手段であることには変わりない。僕は自分の会社がベンチャー企業と呼ばれることをあまり好まない。なにか、踊らされているようで不安になるからだ。

今の時代、どのような生き方をするにしても「上昇志向」という罠は、大きな口をあけて、いたるところに潜んでいる。

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